続イギリスで始めたこと

2001年からイギリスに住んでいます。 人生何があるかわかりません。思いもしなかった異国暮らし。 日々の生活の中で思うこと、発見したこと、出来事などを書いています。

2017年06月10日 の記事一覧

温泉

今回の里帰りのメインイベントは母を温泉に連れて行くことだった。
昨年秋、母を訪ねたとき温泉も行ってみたいなとつぶやいた母。
来年帰ってきたら温泉に行こうと約束して日本を離れた。
日本へ帰る前に温泉の予約をした。
普通の大浴場は無理だろうから部屋に露天風呂のある宿を探した。
実現できるかわからないが最悪の場合はキャンセルも覚悟していた。
いきなり施設から温泉は強行だと思い日本に着いた1週目に
母を自宅へ連れ帰った。
母が家を離れてから2年半が経っていた。
段差のある玄関ではちょっと手間取ったが家に入ると大丈夫だった。
母は家の中のものを一つずつ確認するように見て回った。
施設に戻った母はそれほどの疲れも見せず私は温泉行きに自信を持った。

温泉行きの日、施設に母を訪ねると母は目をつぶったままぐったりした様子。
スタッフの方の話だと朝食の際咳き込んでしまい痰が絡まったとのこと。
母の様子を見てだめかもしれないと思った。
しかしスタッフの方が絶対母を温泉に行かせたいと思い
看護師に頼んで痰の吸入をしてもらったそうだ。
この方がもう少しで落ち着くと思うと言ってくださった。
30分ほど経ち、入浴介助に来てくれる友達が施設に着いた頃には
母はしっかり目を開け大丈夫そうに見えた。
そしてスタッフに見送られて施設を後にした。
行き先は支笏湖。札幌から車で1時間ほど。
途中道の駅に止まり母の好きなソフトクリームを食べた。
車中の母は興奮しているのか頭もしっかりしていて
普通の会話ができた。

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無謀な計画を立てた私とは違って友達は私が気がつきもしない準備をしてくれた。
母のためにシャワーチェアーを持ってきてくれた。
温泉は落ち着いた佇まいだった。
部屋の外に庭と庭に面した露天風呂。
露天風呂が屋外だと気付いた友達が温度差を危惧して
母を露天風呂に入れるのは無理かもしれないと言った。
すぐに大浴場を見に行き車椅子で湯船の近くまでいければ
大丈夫だろうと母を大浴場に連れて行った。
友達の持ってきたシャワーチェアーを使い
無事母を大浴場に入れることができた。
友達の助けがなければ実現しなかった。
友達は一緒に夕食を取った後帰っていった。
母は相当疲れたようでベッドに入るなり高いびきで寝だした。
私は部屋の露天風呂で母を見ながら入浴できた。
母には露天風呂には入ってもらえなかったがこれはこれでよかったと思った。

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翌朝母は私が起こすまでぐっすり寝ていた。
母はトイレが終わると突然「風呂に入る」と言い出した。
風呂って?と私が訊くと部屋の露天風呂を指差した。
どうしようと動揺を隠しながら車椅子で風呂のそばまで行けるか確認した。
大丈夫そうだった。
そこへ友達からメールが来た。
「おばさん大丈夫?」
まさかこれから露天風呂に入るところとは言えない。

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母を車椅子に乗せ風呂のすぐ横に横付けした。
さてここからどうしようと考えていたら
母がお風呂の角にあった柱を掴みひょいっと風呂に入ってしまった。
すぐあとに私も続き二人でお風呂に浸かった。
気持ちよかった。
母も大満足。
実は母はこの露天風呂を見たときから入りたいと思っていたそうだ。
ただ母も良く知っている友達が心配しているので
友達のいる前では言わないでおいたようだ。
心置きなく風呂に浸かって上がった。

その後私が実は露天風呂に入ったと送ったメッセージを見て
友達が電話をくれた。
友達は悲鳴を出さんばかりにびっくりしていた。
母を電話に出すとおばさん、お風呂に入ったの?と尋ねる友達に
入ったよと涼しい顔で答える母。
友達と母の底力はすごいという結論に達した。

母が認知症を発症して自宅を離れ施設や病院を経て2年半の時が流れていた。
認知症を発症した直後の私と母には絶望感しかなかった。
それが時を経て温泉に行けたことが夢のようだった。
母と温泉の話をする度に母の笑顔を見ることができた。
また行こうねと約束した。
友達や施設の方の助けを得て母の希望を実現できたのが
何より嬉しいことだった。

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